大使レター(2)

令和6年7月12日
 皆さん、こんにちは。
 
 前回の大使レターを発出してから、早3ヶ月以上が経ちました。前回の大使レターにわざわざご返信を頂いた方々には、改めてこの場を借りて御礼申し上げます。
 
 この3ヶ月強の間、私は引き続き運輸・インフラ、環境・水利・森林、文化、家族・青少年・機会均等、研究・イノベーション・デジタル分野を担当する諸大臣や中央銀行総裁にご挨拶をし、戦略的パートナーとしての関係拡大深化を深めていくことで一致し、具体的な案件についても話し合いを進めました。また、ルーマニアで活躍される日本のビジネスマンの方々、文化関係者、ルーマニアで日本語・日本文化の普及に尽力されているルーマニア人の方々等、様々な人々と出会い、その活動を目の当たりにしたり、直接触れることができました。現地に赴き、現場の活動を実際にこの目で見て初めて分かること、認識することも多々あり、現場に赴いて実際にこの目で皆様方の諸活動を見ることの重要性を改めて感じました。
 
 私の使命は、前回の大使レターでも述べましたが、昨年3月のヨハニス大統領による訪日の際、岸田総理との間で署名された「戦略的パートナーシップ構築に関する日・ルーマニア共同声明」により、両国首脳間で一致した各分野での課題を一つ一つ具体的に実行に移していくことであり、着実にこれらを実行に移せるよう環境整備をしていくことと考えております。
 
 このような観点から、今回の大使レターでは、両国間の「戦略的パートナーシップ」がこの期間どのように具体化され、着実にこれらが実行に移されてきているか、また、移されるよう環境整備がされてきているかを見ていきたいと思います。
 
 まず、第1の柱である、「政治・安全保障対話」の分野ですが、両国では引き続き定期的なハイレベル会合が開催されています。3月11日には上川外務大臣とオドベスク・ルーマニア外相の間で、日本とルーマニアの戦略的パートなシップ署名1周年を記念し、電話会談が行われました。新たに踏み出す二国間関係及び地域情勢について、また、ルーマニアが昨年議長国を務めた「女性、平和、安全保障(WPS)」についても話し合いが行われました。
 
 ウクライナ情勢に関しましては、この期間、日本による支援で当地で行われている国際機関や日本のNGOによる活動を数多く視察することができました。Romexpoにあるウクライナ避難民支援センターにおける国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界保健機関(WHO)の当地事務所の活動をはじめ、国際移住機関(IOM)や国連国際児童緊急基金(UNICEF)の当地事務所がルーマニア内務省緊急事態総局やブカレスト市役所関係者と緊密に連携してウクライナ避難民支援に尽力したり、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンやグッドネーバーズ・ジャパンといった日本のNGOがコンスタンツァ県やスチャヴァ県といったルーマニアの地方でウクライナ避難民支援に提携団体とともに取り組んでいる姿に大変感銘を受けました。三年目に突入したロシアによるウクライナ侵攻によって引き起こされた人間の尊厳が脅かされる事態が一刻も早くなくなることを祈って、日本政府は引き続きルーマニアを含む近隣諸国で活動している国際機関や日本のNGOと協力して、ウクライナ避難民支援に取り組んでいきます。
 
 また、6月下旬からルーマニア日本友好議員連盟会長一行の訪日が行われ、日本の議会関係者等との交流が行われました。このように、両国間の議会関係者の交流が進展していることを歓迎致します。
 
 第2の柱である「経済及び開発に関する協力」についてですが、当地における日系企業の活動を把握すべく、日・ルーマニア経済関係を担う主要な企業であるマキタ、JTI、アサヒグループホールディング株式会社傘下のビール醸造所、丸紅のポルトガル子会社AGS社が無収水対策事業を提携して実施しているコンスタンツァ水道公社RAJA社などを視察したほか、様々な日系企業関係者と意見交換を行いました。
 
 また、二国間プロジェクトにおいて持続可能な連結性及び質の高いインフラを促進すべく、国土交通省から海外プロジェクト推進官がルーマニアを訪問し、ルーマニアの地方の老朽化橋梁を視察したり、ルーマニア開発・公共事業・行政省関係者や運輸・インフラ省関係者と将来のあり得べき二国間プロジェクトに関して意見交換を行いました。
 
 さらに、日本貿易振興機構(JETRO)等の尽力により、昨年6月に当地クルージュ・ナポカ市で開催された「第1回日・ルーマニアイノベーションフォーラム」に引き続き、本年6月28日に東京で「第2回日・ルーマニアイノベーションフォーラム」が開催されました。同フォーラムには、ルーマニア側から友好議連の会長一行や国有企業モニタリング・パフォーマンス評価庁長官が参加したほか、9社のルーマニアのIT企業が訪日し、盛況に終わった旨伺っています。
 
 2025年大阪・関西万博については、6月21日にルーマニアのパビリオンの「起工式」が大阪で実施されたことを喜ばしく思います。今度とも来年の本番に向けてルーマニア側と協力して機運を醸成していきたいと考えております。
 
 第3の柱である「文化、科学技術、研究開発、イノベーション、人的交流」分野ですが、この分野ではこの3ヶ月間をとってみただけでも、多種多様な交流が進んでいます。
 
 4月初旬には高山市長がシビウ市を訪問し、シビウ市長やシビウ国際演劇祭総監督等と今後の両都市の交流の活発化等について意見交換を行いました。
 
 4月13日には、ヘラストラウ公演内日本庭園にて第5回目となる「花見」が開催されました。開会式には首相官邸参事官や外務次官が歓迎や祝賀の挨拶を行い、新たな桜の木の植樹式が行われたほか、ステージでは和太鼓、空手、日本舞踊、剣道などの力強いパフォーマンスが来場者を魅了し、庭園内では茶道、浴衣着付け体験、折り紙、和太鼓、書道、剣道、弓道、空手、日本酒、団扇、絵馬、漢字、豆つかみのワークショップなど様々な日本の伝統文化がルーマニア人を中心に披露されました。このほか、ブカレストでは同月East European Comic Con (通称コミコン)が開催されるなど、日本のアニメやコスプレの根強い人気を感じさせました。
 
 また、同月、イルフォヴ県マグレレ市所在の極限レーザー核物理研究所(ELI-NP: Extreme Lights Infrastructure-Nuclear Physics)を訪問しました。同研究所所長や大阪大学から派遣されている名誉教授等から、ELI-NPの概略、大阪大学、オカモトオプティクス社と協働して新たに光学センターを建設するプロジェクト等について説明を受け、同研究所内や光学センター建設予定地を視察しました。「戦略的パートナーシップ」共同声明にも言及され、両国首脳立会の下、「大阪大学レーザー科学研究所、株式会社オカモトオプティクス、ELI-NPの間の協力覚書」の文書交換式が行われた本プロジェクトは、両国の科学技術協力を象徴するプロジェクトなので、今後ともしっかりとフォローしていきたいと考えています。
 
 さらに、5月には、ブカレスト工科大学で「日・ルーマニア地震に際する建築物・橋梁の修復・維持ワークショップ」が開催されました。同ワークショップでは、開発・公共事業・行政次官、内務省緊急事態総局次官、国土交通省海外プロジェクト審議官、ブカレスト工科大学学長が挨拶を行ったほか、主に建築物及び橋梁の老朽化に対処するための耐震・免震技術について、東京大学、東北大学、早稲田大学の教授や国土交通省海外プロジェクト推進官が登壇し、専門分野の講演講義を行いました。今回のワークショップを契機に、ルーマニアにおいて日本と共同で同分野の議論・協力がより一層活発化することを期待しています。
 
 また、6月にはクルージュ・ナポカ市で今年日本が特集国に選ばれたトランシルバニア国際映画祭(TIFF)が開幕し、日本映画16本が上映された他、TIFFと当館共催による記念レセプションを開催し、映画関係者やクルージュ所在の大学・企業関係者、文化関係者等にクルージュで日本食普及親善大使として活躍する日本人のシェフによる日本食や日本酒など、日本の飲食文化を楽しんでいただきました。
 
 さらに、6月21日からシビウ市で第31回国際演劇祭(FITS2024)が開幕し、オープニング・セレモニーに出席したほか、山本能楽堂による能公演、クロージング・セレモニーなど堪能しました。今年も複数の日本の劇団が参加しているほか、シビウ市の姉妹都市・高山市などからボランティアが参加し、猛暑の中、フェスティバルの運営サポートをしており、心より感謝申し上げます。
 
 このように日ルーマニア関係は首都ブカレストだけではなく、地方都市においても益々活発になってきております。ルーマニアと日本の姉妹都市提携や都市間交流は、音楽や演劇、演劇祭のボランティアを通じた市民交流を契機に発展してきております。今後ともこのように多種多様化し、益々厚みを増す日ルーマニア関係をより一層促進していく所存です。引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。
                      
駐ルーマニア日本国特命全権大使



片江 学巳